2025
05.05

真言密教

はじめに

真言密教とは

真言密教は、平安時代初期に弘法大師・空海によって日本に伝えられ、広められました。

1.真言密教の基本概念
真言密教は、その名の通り「密教」に分類されます。密教とは「秘密の教え」を意味し、密教以外の仏教である「顕教(けんぎょう)」とは異なり、師から弟子へと直接、口伝によって伝授されるものです。密教では、仏の真実の言葉である「真言(マントラ)」を通じて、宇宙の真理や深遠な意味を理解することを目指します。
真言密教の最も中心的な思想は「即身成仏(そくしんじょうぶつ)」です。これは、修行を通じて、この身のままで仏となることが可能であると説く教えです。つまり、特別な生まれ変わりを待つことなく、生きている間に悟りの境地に達することを目指します。
この即身成仏を達成するための実践が「三密加持(さんみつかじ)」です。三密とは、仏の「身(身体の行為)」、「口(言葉の行為)」、「意(心の行為)」を指し、行者(修行者)自身の身、口、意の三つを仏と一体化させる修行を行います。具体的には、身体で印を結び(身密)、真言を唱え(口密)、仏を心に観想する(意密)ことで、悟りの境地に達することを目指します。これを「三密瑜伽(さんみつゆが)」とも呼びます。修行の目的は、仏の身・口・意と行者の身・口・意を感応させ、一体化することにあります。
真言密教の最高の本尊は「大日如来(だいにちにょらい)」です。大日如来は、宇宙の真理そのものを象徴する存在であり、全てのものを創造する根源的な存在とされています。他の仏や菩薩も大日如来の顕現であると考えられ、その広大な慈悲と智慧を体現しています。

2.歴史と発展
真言密教を日本に伝えたのは、弘法大師空海です。空海は唐(当時の中国)に渡り、長安の青龍寺で恵果和尚(けいかおしょう)から密教の全てを学びました。驚くべきことに、わずか数か月間の修行で密教の全伝授を受けたとされています。その後、空海は日本に帰国し、真言宗を開きました。これにより、密教は日本全国に広まることとなります。
真言密教は、後に「東密(とうみつ)」とも呼ばれ、天台宗の密教である「台密(たいみつ)」と並んで、日本の二大密教として発展しました。東密(真言密教)では大日如来を最高仏とし、「大日経」や「金剛頂経」といった密教経典を特に重視します。一方、台密(天台宗の密教)では釈迦如来と大日如来を同一視し、密教経典に加えて「法華経」も重視するという違いがあります。

3.修行と儀式
真言密教の修行は、前述の「三密瑜伽」が中心となります。瞑想を通じて仏を心に描き、真言を唱え、手で印を結ぶことで、仏と行者との一体化を目指します。
重要な儀式の一つに「灌頂(かんじょう)」があります。灌頂は、仏との縁を結ぶための重要な儀式であり、密教の最高峰の儀式とされています。特に「結縁灌頂(けちえんかんじょう)」は、出家していない一般の人々でも参加が可能な儀式であり、仏との縁を結ぶことを目的としています。これは、仏の智慧の水を頭に注ぐことで、仏の弟子となることを意味します。

4.真言密教の主な特徴
真言密教は、顕教とは異なる独自の視点を持っています。顕教では、仏や菩薩を悟りを開いた「人」として捉える傾向がありますが、密教では仏や菩薩を宇宙の真理そのもの、すなわち「法身仏(ほっしんぶつ)」として捉えます。このため、密教は表面的な意味だけでなく、教えの中に隠された深い意味や象徴性を重視します。
また、真言密教の大きな特徴として「欲望の肯定」が挙げられます。一般的な仏教では煩悩や欲望を克服すべきものと捉えることが多いですが、密教では人間の欲望や存在そのものを肯定し、それを悟りへの道と捉える教えを説きます。これは、宇宙の全てが大日如来の顕現であるという思想に基づいています。

5.現代における真言密教
真言密教は、現在も日本各地で広く信仰されています。特に、空海が開いた高野山を本山とする「高野山真言宗」や、京都の東寺を拠点とする「東寺真言宗」などが有名です。現代社会においても、葬儀や法要などの場面で真言密教独自の儀式が行われており、人々の生活に深く根付いています。
真言密教は、深遠な哲学と実践的な修行を通じて、仏教の真理を追求する宗派です。その即身成仏という革新的な教えと、師から弟子へと伝えられる秘密の教えの体系は、現代においても多くの人々に影響を与え続けていま


『大日如来坐像』:東京国立博物館蔵
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp/)

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